現代の電子機器の製造プロセスにおいて、「リフロー」という技術は絶対に欠かすことのできない重要な工程となっています。リフローとは、はんだを精密に加熱することによって電子部品を基板に確実に固定する製造方法のことで、私たちの日常生活に深く浸透しているスマートフォンやタブレット、ノートパソコン、デスクトップコンピュータ、さらには自動車の高度な電子制御装置、家電製品、産業機器など、現代社会を支える幅広い電子製品の製造に広範囲にわたって利用されています。
この技術は、特に表面実装技術(SMT)の普及とともに電子機器製造業界において標準的な手法として確立され、大量生産から少量多品種生産まで、様々な製造規模に対応できる柔軟性を持っています。本記事では、このリフロー技術の基本的な原理や仕組みから始まり、実際の製造現場で活用されている実践的なテクニックや注意点まで、電子機器製造に初めて携わる方にも分かりやすく解説していきます。
目次
手はんだとの根本的な違い
従来の手はんだ付けとリフローの最大の違いは、部品を加熱する方法と作業効率にあります。
手はんだ付けの特徴:
- はんだごてを使って、一つひとつの接続点を個別に加熱する
- 作業者の技術や経験に大きく依存する
- 少量の生産や修理に向いている
- 作業時間やコストがかかりやすい
リフローの特徴:
- 基板全体を一度に加熱し、すべての接続を同時に仕上げられる
- 自動化が可能で、品質のばらつきが少ない
- 大量生産に適している
- ごく細かい間隔(ピッチ)の部品にも対応できる
「はんだ付け」は、別記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
フェーズ1: 予熱(Pre-heat)
温度範囲: 室温~150°C程度
時間: 60~120秒
目的: 基板と部品をゆっくり温め、急な温度変化によるダメージ(熱ショック)を防ぐ
このフェーズでは、基板全体を均等に加熱し、部品や基板に余計な負担がかからないよう温度をじわじわ上げていきます。急に温度を変えると、基板が反ったり部品が壊れたりする恐れがあるため、温度の上昇速度は1秒あたり3〜4°C以下に抑えることが大切です。
注意点:
- 大きな部品と小さな部品で温度差が出ないようにする
- 基板の種類(FR-4、セラミックなど)に合わせて加熱の速さを調整する
- 湿度を管理し、部品内部の水分によるダメージを防ぐ
フェーズ2: ソーク(Soak)
温度範囲: 150~180°C
時間: 60~120秒
目的: フラックスを活性化し、基板全体の温度を均一にする
このフェーズでは、はんだペーストに含まれるフラックスが働き始め、金属表面にできた酸化膜を取り除きます。同時に、基板上のすべての部品をほぼ同じ温度にするため、一定時間かけて温め続けます。
注意点:
- フラックスが正しく働き始める温度に達しているかを確認する
- 基板の場所ごとの温度差を±5°C以内に抑える
- 温めすぎによる部品のダメージを避ける
フェーズ3: リフロー(Reflow)
温度範囲: はんだの融点+20~40°C
時間: 30~60秒
目的: はんだの完全溶融と接合形成
このフェーズが最も重要です。はんだペーストが完全に溶け、部品と基板の金属パッドがしっかりつながります。たとえば共晶はんだ(Sn63/Pb37)の場合は約183°C、鉛フリーはんだ(SAC合金)の場合は約217〜220°Cまで温度を上げます。
注意点:
- ピーク温度を正確にコントロールし、部品を熱で傷めないようにする
- すべての接続部が融点以上に達しているか確認する
- 急激な温度変化による接続不良を防ぐ
フェーズ4: 冷却(Cooling)
温度範囲: ピーク温度から室温まで
時間: 60~180秒
目的: はんだを適切に冷やし、接合部を安定させる
冷却フェーズでは、溶けたはんだをちょうど良い速さで冷やすことで、強い接合が得られます。冷却のスピードは1秒あたり4〜6°C程度にコントロールし、急に冷やしてひび割れ(クラック)や接合部のもろさを防ぎます。
注意点:
- 冷却速度を一定に保つ
- 温度差を管理し、基板が反らないようにする
- はんだが固まるまでは基板を動かさない
リフロー工程で最も見落としがちなのが基板の反りと部品の熱膨張係数の違いです。。特に大型基板や異なる材質の部品が混在する場合、各フェーズでの昇温・降温速度を部品ごとに最適化する必要があります。また、フラックス残渣の管理も重要で、洗浄工程との連携を考慮したフラックス選定により、後工程での信頼性向上が図れます。現場では、これらの物理的・化学的要因を事前に把握し、温度プロファイルに反映させることで、安定した生産が実現できます。
リフロー加熱方式の比較 ― IR・熱風・ベーパーの選び方
リフロー技術には、部品を加熱する方法の違いによっていくつかの方式があります。それぞれに特徴とメリット・デメリットがあり、用途に合わせて選ぶことが大切です。
IR(赤外線)リフロー
基本原理: 赤外線ヒーターを使い、放射される熱で基板を加熱する方式です。赤外線は物体に直接エネルギーを与えるため、効率よく加熱できます。
メリット:
- 設備コストが比較的安い
- 温度制御がしやすい
- メンテナンスが簡単
- 小規模〜中規模の生産に適している
デメリット:
- 部品の材質や色によって加熱ムラが出やすい
- 大きな部品が影になると加熱不足が起きる(シャドー効果)
- 局所的な加熱により基板が反ることがある
- 精密な温度制御には限界がある
適用例:一般的な電子機器の製造、試作、小ロット生産
熱風リフロー
基本原理: 加熱した空気を循環させて基板を温める方式です。空気の流れによって、基板全体を均一な温度にできます。
メリット:
- 温度分布が均一になりやすい
- シャドー効果の影響が少ない
- 温度を細かくコントロールできる
- さまざまな基板サイズに対応できる
デメリット:
- 設備コストが高い
- 空気の流れで小さな部品が動いてしまうことがある
- 消費エネルギーが大きい
- 定期的な清掃やメンテナンスが必要
適用例: 高い精度が必要な製品、大量生産ライン、自動車用電子部品など
ベーパーリフロー
基本原理:高い沸点をもつ不活性液体(多くはフッ素系溶媒)の蒸気を使って加熱する方式です。蒸気が冷えるときに発生する熱を利用するため、一定の温度で加熱できます。
メリット:
- 温度分布が非常に均一になる
- 設定温度以上に上がらないため過熱しない
- 酸素がない環境で加熱できるので酸化を防げる
- 複雑な形の基板にも対応できる
デメリット:
- 設備コストが非常に高い
- 使用する溶媒の環境負荷や取り扱いに注意が必要
- 温度は溶媒の沸点に制約される
- 特殊な安全対策が求められる
適用例: 航空宇宙機器、医療機器、高い信頼性が求められる製品など
各リフロー方式の選択は生産規模だけでなく、作業環境や人材のスキルレベルも重要な判断要素となります。特にIRリフローは初期導入しやすい反面、オペレーターの経験値が品質に直結するため、標準化された作業手順書の整備が不可欠です。熱風リフローでは、エアフローパターンの最適化により部品飛びを防ぐノウハウの蓄積が重要で、ベーパーリフローについては溶媒管理や廃液処理のコスト計算を事前に行うことで、総合的な採算性を正しく評価できます。実際の導入時は、これらの運用面も含めて検討することをお勧めします。
はんだペーストの選択
共晶はんだ(Sn63/Pb37)の特性:
- 融点:183°C(一定の温度で溶けて固まる)
- 濡れ広がりが良く、流れやすい
- 扱いやすく作業性が高い
- ただし、環境規制(RoHS指令)により使用が制限されている
鉛フリーはんだ(SAC合金)の特性:
- 主な組成:Sn96.5/Ag3.0/Cu0.5(SAC305)
- 融点:217〜220°C
- 環境に優しい
- 共晶はんだより高いリフロー温度が必要
- 機械的に強く壊れにくい
リフロープロファイルの最適化:はんだの種類ごとに合わせて設定することが大切です。鉛フリーはんだはより高い温度が必要になるため、部品が熱に耐えられるかを考慮して設計する必要があります。
粘度と印刷性: はんだペーストの粘度は、印刷のしやすさに大きく影響します。一般的には150〜250Pa・s(25°C)の範囲で選び、印刷条件や保管環境に応じて調整します。
フラックスの役割と重要性
酸化被膜の除去: 金属表面にできる酸化膜は、はんだが広がるのを妨げます。フラックスはこれを化学的に取り除き、きれいな金属表面を出します。
再酸化の防止: 高温では金属が再び酸化しやすくなります。フラックスは表面を覆って酸素を遮り、再酸化を防ぎます。
表面張力の調整: フラックスは溶けたはんだの表面張力を調整し、広がりやすくきれいな接合部(フィレット)を作りやすくします。
フラックス活性度の選択:
- R(ロジン系):作用は穏やか。表面をきれいに保つのに適している
- RMA(ロジン微活性):中くらいの作用。幅広い用途で使える
- RA(ロジン活性):強い作用。酸化が進みやすい環境で効果的
代表的な失敗例と対策
- はんだボールの発生
原因:
- はんだペーストを厚く塗りすぎた
- 温度を急に上げた
- フラックスがうまく働かなかった
- 基板の表面が汚れていた
対策:
- ペーストの厚さを適切にする(一般的には100〜150μm)
- 予熱の温度上昇を適切にコントロールする
- ペーストの品質を管理する
- 基板を事前に洗浄してきれいにする
- 墓石現象(Tombstoning)
原因:
- パッドの間に温度差がある
- ランド(部品を載せる部分)の設計が不適切
- 部品ごとに濡れやすさが違う
- はんだの量が均等でない
対策:
- 熱の伝わり方のバランスを調整する
- 左右対称のランド設計にする
- 部品の配置を工夫する
- はんだペーストを均等に印刷する
- はんだクラック
原因:
- 急な温度変化(サーマルショック)があった
- 材料の熱膨張率が合わなかった
- 機械的な力が一点に集中した
- 冷却条件が適切でなかった
対策:
- 加熱・冷却のスピードをコントロールする
- 適切な種類の部品を選ぶ
- 基板設計を工夫する(リリーフパターンを使う)
- 作業環境の温度を管理する
- 濡れ不良
原因:
- 表面が酸化していた、または汚れていた
- フラックスの作用が弱すぎた
- 温度管理が適切でなかった
- 保管環境が悪かった
対策:
- 表面処理を改善する
- フラックスの種類を適切に選ぶ
- リフローの温度を最適に調整する
- 部品や基板を正しく保管する
リフロー品質の安定化には記載された要素に加え、生産環境の湿度管理と静電気対策も極めて重要です。特に湿度40-60%の維持は、はんだペーストの粘度安定性と部品内部の水分によるポップコーン現象(パッケージが水分を取り込み、リフローで高温にさらされることで膨張し、パッケージが割れる現象)防止に直結します。また、印刷後の基板放置時間(ワークタイム)の管理も見落としがちで、フラックスの活性度低下により濡れ不良の原因となります。現場では温湿度ログとワークタイム記録を品質データと合わせて分析することで、不良の予兆を早期に発見し、プロセス改善につなげています。これらの環境要因の監視体制構築が、安定品質実現の基盤となります。
IoT×AIが切り開く未来 ― 次世代リフロー技術が電子製造を変革する
近年、電子部品は急速に小型化が進んでおり、それに伴ってリフロー技術も進化しています。たとえば、0201サイズ(0.2mm×0.1mm)やそれより小さな部品に対応するためには、より精密な温度管理や高精度な印刷技術が欠かせません。さらに、銅配線が細くなったり、新しい基板材料が採用されたりすることで、従来とは異なる熱の性質をもつ製品も増えています。こうした変化に対応するため、低温で実装可能なはんだ材料や、新しい種類のフラックスの開発も進められています。
また、環境規制の強化を背景に、鉛を使用しないはんだ(鉛フリー化)の推進や、より環境負荷の少ないフラックスの開発も進展しています。さらに、IoTを活用したリフロー装置の遠隔監視や、AIによる品質予測の取り組みも本格化しつつあります。これらの技術革新によって、リフロー工程はより精密で、かつ環境に配慮した持続可能な製造プロセスへと進化し続けています。
リフローが電子機器製造にもたらす価値
ここまで、リフロー技術の基本的な4つのフェーズや加熱方式の違い、さらに品質を高めるための実践的なポイントを解説してきました。
リフロー技術は、現代の電子社会を支える中心的な技術です。スマートフォンや自動車、医療機器まで、あらゆる電子機器の「心臓部」をつくっています。その価値は、手作業ではできないような細かい間隔(ピッチ)の接続を、一度に均一に仕上げられる点にあります。
ただし、その力を最大限に発揮するためには、基本的な原理を理解し、材料の特性をしっかり把握し、さらに継続的に品質を改善していくことが欠かせません。環境への配慮が求められる今、鉛フリー化は制約ではなく、むしろ高度な技術力を身につけるチャンスだといえます。
IoTやAIの導入によって、リフロー工程はますます進化しています。一方で、どれほど技術が進歩しても、基本となる物理の理解や品質への責任感は変わりません。むしろ技術が高度になるほど、こうした基礎知識はますます重要になっていきます。
リフロー技術を身につけることは、電子機器製造の未来を切り開く力を得ることにつながります。本記事がリフローへの理解を深めるきっかけとなり、皆さまの実践や技術向上の一助になれば幸いです。
リフロープロファイル
リフロー工程での温度と時間の関係を示したグラフ。予熱、ソーク、リフロー、冷却の各フェーズの温度と時間を定義し、はんだ接合の品質を決定する重要なパラメータ。
SACはんだ(エスエーシーはんだ)
錫(Sn)、銀(Ag)、銅(Cu)からなる鉛フリーはんだの代表例。特に「SAC305(Sn96.5/Ag3.0/Cu0.5)」が広く使われており、強度や信頼性に優れている。
ウェッティング
はんだが金属表面に広がって密着する現象。うまく広がることは、確実な電気的・機械的なつながりに欠かせず、表面のきれいさやフラックスの働きに左右される。
サーマルショック
急な温度変化で部品や基板にかかる熱のストレス。セラミックコンデンサのような壊れやすい材料ではひび割れの原因になるため、温度の上げ下げをゆるやかにコントロールすることが大切。
パッケージオンパッケージ(PoP)
複数のICパッケージを縦に重ねて配置する実装技術。コンパクトに実装できるが、内側のパッケージを加熱するのが難しいため、特別なリフロー条件が必要になる。
BGA(Ball Grid Array)
ICパッケージの底面に、はんだボールを格子状に並べた実装方式。小さな部品を高密度に配置でき、電気的な性能にも優れる。ただし外から見えにくいため、検査にはX線など特別な方法が必要になる。
(文・亀岡電子コラム編集部)