ISO9001など、品質マネジメントシステム(QMS)の最適な運用で盤石なサプライチェーンを築こう Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像 製造業を取り巻く環境は日々変化しており、グローバル化が進む中で品質への要求は年々高まっています。特に電子機器メーカーにおいては、製品の複雑化と短いライフサイクルの中で、安定した品質を維持することが競争力の源泉となっています。 このような状況において、品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management System)は、単なる「あった方が良い制度」から「なければ事業継続が困難になるインフラ」へと変化しています。開発・購買担当者や経営企画担当者にとって、QMSの理解は自社の品質向上だけでなく、サプライヤー選定や取引先との関係構築においても重要な判断材料となります。 本記事では、品質マネジメントシステムの基本的な概念から、ISO9001をはじめとする各種規格の特徴、そして実際の業務でどのように活用すべきかまで、実践的な観点から詳しく解説いたします。特に、購買担当者がサプライヤー評価を行う際に着目すべきポイントや、QMSを効果的に運用している企業の具体例もご紹介し、皆様の実務に直結する情報をお届けします。 亀岡電子「EMS/ODMサービス」のお問い合わせはこちら 目次 品質マネジメントシステム(QMS)とは何か? Megan Rexazin CondeによるPixabayからの画像 品質マネジメントシステム(QMS)とは、組織が顧客満足度を向上させるために、品質に関する方針や目標を設定し、それを達成するための仕組みを体系的に構築・運用する経営システムのことです。 QMSの基本的な考え方 QMSは「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)」のPDCAサイクルを基盤として、品質活動を継続的に改善していく仕組みを前提としています。従来の「検査による品質保証」から「プロセス全体での品質作り込み」へとパラダイムを転換し、問題が発生してから対処するのではなく、問題の発生を未然に防ぐ予防的アプローチを重視しています。 購買担当者の視点から見ると、QMSは「サプライヤーがどの程度組織的に品質管理を行っているか」を客観的に判断するための指標となります。単発的な品質改善活動ではなく、継続的かつ体系的な品質向上の取り組みが行われているかを確認できる重要なツールです。 QMSの構成要素 QMSは以下の主要な要素から構成されています。 ・組織体制と責任:品質に関する役割と責任を明確化し、経営層から現場作業者まで一貫した品質方針を共有する体制を構築します。これには品質責任者の任命、各部門の品質目標設定、権限と責任の明文化などが含まれます。 ・文書管理:品質活動に関する手順書、作業指示書、記録様式などを体系的に管理し、常に最新版が使用される仕組みを確立します。変更管理プロセスも重要な要素で、文書の改訂履歴や承認プロセスを明確にします。 ・プロセス管理:製品やサービスの実現に関わる全てのプロセスを特定し、そのプロセスが適切に管理・監視される仕組みを構築します。これには設計開発、調達、製造、検査、出荷などの各段階での品質管理が含まれます。 ・継続的改善:定期的な内部監査、マネジメントレビュー、是正処置・予防処置などを通じて、システムの有効性を評価し、継続的な改善を図る仕組みを確立します。 QMSの目的と企業にもたらす効果 GraphicMama-teamによるPixabayからの画像 品質マネジメントシステムを導入する主な目的は、顧客満足度の向上を通じて企業の持続的成長を実現することです。しかし、その効果は品質向上だけにとどまらず、企業経営全般にわたって多面的なメリットをもたらします。 顧客満足度の向上 QMSの最も重要な目的は、顧客のニーズと期待を的確に把握し、それに応える製品・サービスを継続的に提供することです。顧客要求事項の明確化、設計審査の充実、製造プロセスの安定化などを通じて、顧客が求める品質レベルを確実に達成できる体制を構築します。 電子機器メーカーの場合、エンドユーザーの品質要求は年々厳しくなっており、不具合が発生した場合の影響も甚大です。QMSを適切に運用することで、市場での品質問題を未然に防ぎ、ブランド価値の向上と顧客ロイヤルティの獲得につながります。 製品・サービス品質の維持向上 QMSは、品質を「人に依存する属人的なもの」から「システムで保証される組織的なもの」へと転換させます。標準化された作業手順、定期的な教育訓練、客観的な品質データに基づく管理により、個人のスキルレベルに左右されない安定した品質を実現できます。 また、品質データの蓄積と分析により、品質問題の根本原因を特定し、効果的な改善策を講じることが可能になります。これにより、同じ問題の再発防止だけでなく、類似の問題の予防にもつながります。 法令遵守と社会的責任の履行 製造業では、製品安全に関する法規制、環境規制、労働安全衛生に関する法令など、多岐にわたる法的要求事項への対応が求められます。QMSは、これらの法的要求事項を体系的に管理し、確実に遵守するための仕組みを提供します。 特に海外展開を行う企業では、各国の規制要求に対応するため、QMSを通じた統一的な管理アプローチが不可欠です。ISO9001などの国際規格に基づくQMSは、グローバルな事業展開を支援する基盤としても機能します。 経営効率の向上とコスト削減 QMSの導入により、業務プロセスの標準化と効率化が進み、ムダ・ムラ・ムリの削減につながります。また、品質問題の早期発見・早期対処により、手直し作業や客先クレーム対応に要するコストを大幅に削減できます。 QMSは単なる文書や手続きの羅列ではありません。それは企業の「品質に対する本気度」を示すバロメーターであり、経営層から現場の作業員まで、全員が品質向上にコミットしている証拠です。購買担当者は、サプライヤーのQMSが「形だけ」になっていないか、その運用実態にまで踏み込んで確認する視点を持つべきです。見た目だけでなく、その奥にある企業文化や従業員の意識まで見抜く力が求められます。 組織力の強化と人材育成 QMSは、組織全体の品質意識向上と人材育成にも重要な役割を果たします。明確な責任と権限の設定、定期的な教育訓練、客観的な評価制度などにより、従業員一人ひとりの品質に対する意識と能力を向上させます。 また、改善提案制度や品質サークル活動などを通じて、現場からのボトムアップ型改善を促進し、組織全体の問題解決能力を向上させることができます。 QMS の真の価値は、単に認証を取得することではなく、組織の DNA として品質文化を根付かせることにあります。電子機器業界のように技術革新が激しい分野では、変化に対応できる柔軟性と、基本的な品質管理能力の両立が求められます。QMS を経営戦略の中核に位置づけ、全社一丸となって取り組むことで、持続的な競争優位性を確立できるのです。 QMSは単なる文書や手続きの羅列ではありません。それは企業の「品質に対する本気度」を示すバロメーターであり、経営層から現場の作業員まで、全員が品質向上にコミットしている証拠です。 購買担当者は、サプライヤーのQMSが「形だけ」になっていないか、その運用実態にまで踏み込んで確認する視点を持つべきです。見た目だけでなく、その奥にある企業文化や従業員の意識まで見抜く力が求められます。 亀電 岡子 コラム担当 亀岡電子「EMS/ODMサービス」のお問い合わせはこちら ISO9001とその他の品質マネジメント規格の解説 OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像 品質マネジメントシステムには様々な規格が存在しますが、その中でも最も広く採用されているのがISO9001です。ここでは、ISO9001を中心に、関連する規格についても詳しく解説します。 ISO9001:国際的な品質マネジメントシステム規格 ISO9001は、国際標準化機構(ISO)が制定した品質マネジメントシステムに関する国際規格です。1987年に初版が制定されて以来、定期的に改訂が行われ、現在は2015年版が最新となっていますが、2026年に改訂される予定です。 ISO9001は以下の7つの品質マネジメント原則に基づいて構成されています。 顧客重視:顧客要求事項を理解し、顧客期待を上回ることを目指す リーダーシップ:経営層が品質方針を明確にし、組織を統一した方向に導く 人々の積極的参加:全ての階層の人々が組織の目標達成に貢献する プロセスアプローチ:活動とそれに関連する資源をプロセスとして管理する 改善:継続的改善を組織の永続的な目標とする 証拠に基づく意思決定:データと情報の分析に基づいて意思決定を行う 関係性管理:組織とその供給者との間の相互に有益な関係を管理する また、現行の2015年版では、以下の点が強化されています: リスクベース思考の導入:組織を取り巻くリスクと機会を特定し、それらに対処するアプローチが要求される 経営層のリーダーシップ強調:トップマネジメントの積極的な関与とコミットメントがより明確に求められる ステークホルダーの拡大:顧客だけでなく、従業員、株主、地域社会など、より広範囲のステークホルダーのニーズを考慮する JIS Q 9001:日本工業規格版ISO9001 JIS Q 9001は、ISO9001をベースとした日本工業規格(JIS)です。基本的な内容はISO9001と同一ですが、日本語で記述されており、日本の商慣行や法的環境に適した解釈指針が含まれています。 国内企業にとっては、英語版のISO9001よりも理解しやすく、日本国内でのビジネス環境により適したガイダンスを提供します。認証取得の効力としては、ISO9001認証と同等の価値を持ちます。 SQF(Safe Quality Food):食品安全品質規格 SQFは、食品の安全性と品質を統合的に管理するための規格です。直接的には電子機器製造業とは関係ありませんが、電子機器メーカーでも食品関連の製品(温度センサー、制御装置など)を製造する場合には、取引先からSQF準拠を要求されることがあります。 SQFの特徴は、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Points)の概念を取り入れ、食品安全管理と品質管理を一体化していることです。予防的なアプローチにより、食品安全上のリスクを最小化することを目的としています。 業界特化型規格との関係 電子機器業界ではこれまで挙げた内容に加えて、以下のような業界特化型の規格も重要です。 ・ISO/TS 16949(現IATF 16949):自動車業界向けの品質マネジメントシステム規格で、自動車部品メーカーや自動車関連の電子機器メーカにおいて要求されることがあります。 ・AS9100:航空宇宙業界向けの規格で、航空機用電子機器の製造には不可欠です。 ・ISO 13485:医療機器業界向けの規格で、医療用電子機器の製造において要求されます。 認証取得のプロセス ISO9001認証取得の一般的なプロセスは以下の通りです: 現状分析と計画策定:現在の品質管理体制を分析し、ISO9001要求事項とのギャップを特定 QMSの構築:品質マニュアル、手順書の作成、組織体制の整備 内部監査:構築したシステムが適切に機能するかを内部で確認 認証機関による審査:第三者認証機関による文書審査と現地審査 認証取得:審査に合格すれば認証書が発行される 維持・継続:年次サーベイランス審査と3年毎の更新審査 認証取得には通常6ヶ月から1年程度の期間を要し、組織の規模や複雑さによって異なります。 ISO9001 を中心とした品質マネジメント規格は、単なる「お墨付き」ではなく、組織の品質管理能力を客観的に示す重要な指標です。特に国際的な取引では、ISO9001認証は「品質管理の最低限の条件」として位置づけられることが多く、認証未取得の企業は取引対象から除外される場合もあります。しかし、より重要なのは認証取得そのものではなく、規格要求事項を通じて自社の品質管理システムを継続的に改善し、真の競争力を獲得することなのです。 数ある規格の中で、ISO 9001は品質マネジメントの「共通言語」と言える存在です。 しかし、認証取得はゴールではなく、スタート地点に過ぎません。大切なのは、その規格が意図する「継続的な改善」の精神を企業文化に根付かせ、実効性のあるQMSを運用し続けることです。 各規格の特性を理解し、自社の事業内容やサプライチェーンの特性に合ったサプライヤーを選ぶ基準にすることが重要です。 亀電 岡子 コラム担当 製造業担当者がQMSを理解すべき理由 Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像 製造業の開発・購買担当者や経営企画担当者にとって、品質マネジメントシステムの理解は業務の効率性と成果に直結する重要なスキルです。単なる知識として持っておくだけでなく、実際の業務判断や戦略策定において活用できるレベルでの理解が求められています。 サプライヤーの品質能力を客観的に評価する指標 従来のサプライヤー評価では、価格、納期、技術力が主な判断基準でしたが、昨今では品質管理能力の重要性が飛躍的に高まっています。QMSの理解により、以下のような客観的な評価が可能になります。 ・組織的な品質管理体制の確認:個人の技量に依存した品質管理ではなく、組織全体として品質を保証する仕組みが構築されているかを判断できます。経営層のコミットメント、品質方針の明確性、各部門の役割分担などを体系的に評価することで、そのサプライヤーの品質管理の持続可能性を予測できます。 ・品質データの信頼性評価:QMSが適切に運用されている企業では、品質データの収集・分析・活用が体系化されています。提供される品質データの取得方法、分析手順、改善への活用状況を確認することで、データの信頼性と改善への取り組み姿勢を評価できます。 ・問題解決能力のアセスメント:品質問題が発生した際の対応プロセスを事前に確認できるため、トラブル発生時の対応力を予測することが可能です。是正処置・予防処置のプロセス、根本原因分析の手法、再発防止策の有効性評価方法などを確認することで、長期的な取引における安心感を得られます。 不良品リスクの大幅な低減 QMSを理解し、それを基準にサプライヤーを選定することで、不良品に起因する様々なリスクを効果的に低減できます。 ・製造工程での品質作り込み:QMSが機能している企業では、製造工程の各段階で品質管理ポイントが設定され、不良品の流出を防ぐ仕組みが構築されています。工程能力の把握、統計的品質管理の実施、作業標準の遵守状況などを確認することで、安定した品質の製品供給を期待できます。 ・設計品質の向上:設計審査、設計検証・妥当性確認などのプロセスが適切に実施されているかを確認することで、設計段階での品質問題を未然に防止できます。特に電子機器では、設計段階での品質作り込みが最終製品の信頼性に大きく影響するため、この点の確認は極めて重要です。 安定供給体制の確保 QMSは品質管理だけでなく、業務プロセス全般の管理も含んでいるため、供給安定性の評価にも活用できます。 ・プロセスの標準化と可視化:製造プロセスが標準化され、適切に文書化されている企業では、人員の変更や設備のトラブルがあっても、迅速な復旧と継続的な供給が期待できます。 ・リスク管理体制:QMS2015年版で強化されたリスクベース思考により、事業継続に影響を与える可能性のあるリスクが特定され、対策が講じられているかを確認できます。 コスト削減効果の実現 QMSを理解してサプライヤーを選定することで、直接的・間的なコスト削減効果を実現できます。 ・品質コストの削減:不良品の発生、検査・手直し作業、客先クレーム対応などに要するコストを大幅に削減できます。特に電子機器では、市場流出した不良品の回収・交換コストは製造コストの数十倍になることもあるため、予防的な品質管理の効果は計り知れません。 ・取引コストの削減:QMSが機能している企業との取引では、品質確認のための検査工程を簡素化できたり、信頼関係に基づく長期契約により調達コストを削減できたりします。 コミュニケーションの円滑化 QMSに関する共通理解があることで、サプライヤーとのコミュニケーションが格段に効率化されます。 ・共通言語の確立:品質管理に関する専門用語や概念を共有することで、誤解の少ない正確なコミュニケーションが可能になります。 ・問題解決の迅速化:問題が発生した際に、QMSの枠組みに基づいて体系的に原因分析と対策立案を行うことで、効果的な解決策を短期間で見つけることができます。 長期的なパートナーシップの構築 QMSの理解は、単発的な取引関係を超えた戦略的パートナーシップの構築にも寄与します。 ・相互の成長促進:QMSの継続的改善の概念を共有することで、サプライヤーと共に品質レベルを向上させていく長期的な関係を構築できます。 ・技術革新への対応:技術革新が激しい電子機器業界では、新技術への対応力も重要な要素です。QMSが機能している企業では、変更管理プロセスが確立されているため、新技術の導入もスムーズに行われることが期待できます。 製造業の競争環境がますます厳しくなる中で、QMS の理解は担当者個人のスキルアップだけでなく、企業の競争力向上に直結する重要な能力です。表面的な認証取得の有無だけでなく、その運用実態を見極める眼力を養うことで、真に価値のあるサプライヤーとの関係を構築し、自社の事業成長を支える強固な供給基盤を確立することができるのです。 亀電 岡子 コラム担当 QMS機能を持たないサプライヤーとの取引リスク Mohamed HassanによるPixabayからの画像 品質マネジメントシステムを持たないサプライヤーとの取引には、様々なリスクが潜んでいます。これらのリスクは、短期的な調達コスト削減メリットを大きく上回る損失をもたらす可能性があります。購買担当者や経営企画担当者は、これらのリスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。 品質のばらつきとその影響 QMSを持たないサプライヤーの最も大きな問題は、品質の一貫性が保証されないことです。 ・作業者依存の品質管理:品質管理が個人の技量や経験に依存している場合、作業者の体調、集中力、経験年数などによって製品品質が大きく左右されます。特に複雑な電子部品や精密加工が要求される製品では、この影響は顕著に現れます。 ・ロット間品質変動:標準化された作業手順や管理基準がない場合、製造条件の微細な変化が品質に大きな影響を与えます。同じ製品であっても、製造時期や製造担当者によって品質レベルが異なり、最終製品の性能や信頼性に予期しない影響を与える可能性があります。 ・検査基準の曖昧さ:明確な検査基準や判定方法が確立されていない場合、「合格」「不合格」の判定にばらつきが生じます。これにより、実際には不具合を含む製品が出荷されたり、逆に問題のない製品が不良品として処理されたりする可能性があります。 突発的な品質問題の発生 体系的な品質管理が行われていない環境では、予期しない品質問題が突然発生するリスクが高くなります。 ・潜在的欠陥の見落とし:日常的な品質監視体制が不十分な場合、製造工程に潜む問題が長期間にわたって見過ごされる可能性があります。これらの問題が表面化した時には、既に大量の不良品が市場に流出している可能性があり、大規模なリコールや信頼失墜につながるリスクがあります。 ・工程変更の無管理:設備のメンテナンス、作業手順の変更、材料の変更などが無管理で行われる場合、品質に予期しない影響を与える可能性があります。変更管理プロセスが確立されていないため、変更による影響の事前評価や適切な承認プロセスが行われません。 ・供給者管理の不備:二次供給者(サブサプライヤー)の管理が不十分な場合、サプライチェーンの上流で発生した問題が最終製品まで波及するリスクがあります。特に電子部品では、素材や部品の品質が最終製品の性能に直結するため、この影響は深刻です。 納期遅延と生産計画への影響 品質問題は必然的に納期遅延を引き起こし、自社の生産計画に深刻な影響を与えます。 ・手直し作業による遅延:品質問題が発生した場合、原因究明、不良品の選別、手直し作業、再検査などの工程が追加されるため、大幅な納期遅延が発生します。電子機器業界のように短納期が要求される分野では、この遅延が競争力に致命的な影響を与える可能性があります。 ・代替調達の困難さ:突発的な品質問題により緊急に代替調達が必要になった場合、短期間で代替サプライヤーを見つけることは困難です。特に特殊な技術や設備が必要な部品では、代替調達そのものが不可能な場合もあります。 ・生産ライン停止リスク:品質問題により必要な部品が調達できない場合、自社の生産ラインが停止するリスクがあります。製造業では、生産ライン1時間の停止コストが数百万円から数千万円に達することもあり、その経済的影響は甚大です。 問題発生時の対応の遅れ QMSが確立されていないサプライヤーでは、問題が発生した際の対応が場当たり的になりがちです。 ・根本原因分析の不備:体系的な問題解決手法が確立されていない場合、表面的な対症療法に終始し、根本原因が解決されないまま同様の問題が再発する可能性があります。 ・情報共有の遅れ:品質問題の発生を迅速に関係者に伝達する仕組みが確立されていない場合、対応が後手に回り、被害が拡大する可能性があります。 ・改善策の有効性評価不足:講じた改善策の有効性を客観的に評価する仕組みがない場合、同じ問題が形を変えて再発するリスクがあります。 自社の製造ラインへの波及影響 サプライヤーの品質問題は、自社の製造プロセス全体に波及的な影響を与えます。 ・工程内不良の増加:不良部品が工程に投入されることで、後工程での不良発生率が上昇し、全体的な歩留まりが悪化します。 ・検査コストの増加:サプライヤーの品質が不安定な場合、受入検査を強化する必要があり、検査工数とコストが増加します。 ・在庫管理の複雑化:品質問題により部品の使用可否判定が複雑になり、在庫管理が煩雑になります。また、不良在庫の発生により資金効率も悪化します。 長期的な事業リスク QMSを持たないサプライヤーとの取引継続は、長期的な事業リスクも孕んでいます。 ・技術力向上の阻害:品質改善に取り組む文化がないサプライヤーでは、技術力の向上が期待できません。技術革新が激しい電子機器業界では、サプライヤーの技術力停滞が自社の競争力低下に直結します。 ・コンプライアンスリスク:品質管理体制が不十分なサプライヤーでは、法規制遵守に関する意識も低い可能性があります。環境規制、労働安全衛生規制、製品安全規制などの違反により、取引停止や法的責任を問われるリスクがあります。 ・レピュテーションリスク:サプライヤーの品質問題が原因で市場での品質トラブルが発生した場合、最終的な責任は自社が負うことになります。特にBtoC製品では、消費者の信頼失墜は企業価値に長期的な影響を与えます。 サプライヤー選びは、企業の将来を左右する重要な経営判断です。安易なコスト削減のために、品質管理が不十分なサプライヤーを選んでしまうことは、結果として高額な損失を招くことになりかねません。 目先のコストだけでなく、潜在的なリスクまで見通し、品質を最優先する姿勢が、結局は企業を強くする道だと考えています。 亀電 岡子 コラム担当 購買担当者がチェックすべきQMSのポイント Mohamed HassanによるPixabayからの画像 購買担当者がサプライヤーのQMSを評価する際には、認証取得の有無だけでなく、その運用実態を詳細に確認することが重要です。形式的な認証ではなく、QMSが実際に機能し、継続的な品質向上に貢献しているかを見極める必要があります。 運用実態の重要性 ・経営層のコミットメント確認:QMSの効果的な運用には、経営層の強いコミットメントが不可欠です。品質方針が明確に定められ、経営層自らがその実現に向けて積極的に関与しているかを確認します。具体的には、品質目標の設定、資源の配分、定期的なレビュー実施などの実績を確認することが重要です。 ・組織全体への浸透度:QMSが一部の部門だけでなく、組織全体に浸透しているかを評価します。現場作業者から管理職まで、全員が品質方針を理解し、日常業務で実践しているかを確認します。現場訪問時の従業員インタビューや、品質目標の認知度調査などが有効な確認方法です。 ・継続的改善の文化:単に問題が発生した時の対処だけでなく、日常的に品質向上に取り組む文化が根付いているかを確認します。改善提案制度の運用状況、品質サークル活動の実績、従業員の改善意識などを評価することで、継続的改善への取り組み姿勢を判断できます。 チェック項目①:品質目標と達成状況の確認 品質目標が具体的かつ測定可能な形で設定されているか、そしてその達成状況が適切に管理されているかを確認します。 品質目標の設定根拠と合理性 目標達成のための具体的なアクションプラン 定期的な進捗確認と評価プロセス 未達成時の原因分析と対策立案 目標の見直しと改善のプロセス 優れたサプライヤーでは、品質目標が事業戦略と連動しており、全社的な取り組みとして位置づけられています。また、目標達成状況が可視化され、関係者間で共有されています。 チェック項目②:不適合品発生時の是正処置・予防処置プロセス 品質問題が発生した際の対応プロセスが確立され、適切に運用されているかを確認します。 不適合品の特定と隔離のプロセス 根本原因分析の手法と実施体制 是正処置の立案と実施プロセス 予防処置の検討と実施 効果確認と水平展開の仕組み 特に重要なのは、表面的な対症療法ではなく、根本原因まで掘り下げた分析が行われているかです。なぜなぜ分析、特性要因図、FMEA(故障モード影響解析)などの手法が適切に活用されているかを確認します。 チェック項目③:トレーサビリティの確保 製品の履歴を追跡できる仕組みが確立されているかを確認します。特に安全性や信頼性が重要な電子部品では、トレーサビリティの確保は不可欠です。 原材料から最終製品までの履歴管理 ロット管理と識別システム 製造条件と検査結果の記録 出荷先との関連付け 問題発生時の迅速な追跡能力 センサーやスイッチなどの重要部品では、万一の品質問題発生時に迅速に影響範囲を特定し、適切な対策を講じることができるトレーサビリティシステムが重要です。 チェック項目④:内部監査の実施状況 内部監査が定期的に実施され、その結果が効果的に活用されているかを確認します。 内部監査の実施計画と実績 監査員の力量と独立性 監査チェックリストの妥当性 指摘事項の是正状況 監査結果のマネジメントレビューへの報告 効果的な内部監査が実施されている企業では、監査が「あら探し」ではなく「改善機会の発見」として位置づけられており、監査結果が継続的改善に活用されています。 チェック項目⑤:文書管理と記録管理の方法 QMSの効果的な運用には、適切な文書管理と記録管理が不可欠です。 文書の階層化と体系化 改訂管理と版数管理 配布管理と廃版管理 記録の保管と検索システム 電子化の状況と情報セキュリティ対策 デジタル化が進む現在では、紙ベースの管理からデジタル管理への移行状況も重要な評価ポイントです。効率的で確実な文書・記録管理システムの構築は、品質管理の基盤となります。 チェック項目⑥:サプライヤー(二次供給者)の管理体制 サプライヤー自身が、その調達先(二次供給者)をどのように管理しているかも重要な確認ポイントです。 二次供給者の選定基準と評価方法 定期的な監査・評価の実施状況 品質協定の締結状況 品質問題発生時の連携体制 技術情報の共有と機密管理 サプライチェーン全体での品質保証体制を確認することで、より確実な品質管理を期待できます。 評価時の注意点 ここまでお伝えしたチェック項目を評価するにあたっては、以下の観点に注意して進めましょう。 ・現場確認の重要性:書面上の確認だけでなく、実際の現場を訪問し、作業実態を確認することが重要です。作業標準の遵守状況、5S活動の実施状況、作業者の品質意識などを直接確認します。 ・継続的な関係構築:一度の評価で終わらず、継続的にコミュニケーションを取り、改善状況をフォローしていくことが重要です。定期的な情報交換により、問題の早期発見と対策が可能になります。 ・客観的な評価基準:主観的な印象ではなく、客観的なデータと事実に基づいて評価することが重要です。評価基準を明確にし、複数の担当者で評価することで、評価の公平性と客観性を確保します。 サプライヤーのQMSを評価する際は、必ず現場に足を運び、自らの目で確認することが重要です。文書上の記述だけでなく、従業員の表情や作業風景、整理整頓の状況など、細部にまで目を凝らすことで、QMSが「生きているか」どうかが見えてきます。形式的な質問だけでなく、具体的な事例を尋ね、深く掘り下げることで、サプライヤーの真の品質力を測ることができるでしょう。 亀電 岡子 コラム担当 亀岡電子のQMSへの取り組みを具体的に紹介 亀岡電子の朝一ミーティングの様子 亀岡電子は、長年にわたり電子機器部品製造の分野で信頼を築いてきた企業です。その信頼の基盤となっているのが、徹底した品質マネジメントシステムへの取り組みです。ここでは、亀岡電子がどのようにQMSを運用し、高品質な製品を提供し続けているのかをご紹介します。 ISO 9001認証取得 亀岡電子では、ISO 9001認証を早期に取得し、その要求事項に準拠したQMSを構築してきました。これにより、製品設計から製造、検査、出荷、そして顧客対応に至るまで、一貫した品質管理体制が確立されており、常に安定した品質の製品供給を実現しています。 もちろん、ISO 9001の要求事項を単に満たすだけでなく、それを実効性のあるものにするための取り組みを日々続けています。 独自の品質基準と運用状況 亀岡電子が扱う製品は、高い品質基準を求める大手製造業のお客様のものが多いので、必然的にそれらの品質基準をクリアすることを最低条件としています。この高いハードルをクリアするために、亀岡電子ではISO 9001の枠組みをベースにしながらも、独自の厳格な品質基準を設けています。 社内システムを使って発生した不具合の履歴を残すのはもちろん、 いつ、どこで、どのような不具合が発生したのか、その原因は何か、どのような是正処置を講じたのか、といった情報を詳細に記録するようにしています。 さらに、従業員(作業者)に対しては、毎週1回朝一ミーティングという形で発生不具合の情報を共有し、再発しないよう周知。 このミーティングは、現場の従業員一人ひとりが品質問題に当事者意識を持ち、知識を共有し、改善に繋げるための重要な場となっています。 検査体制 亀岡電子では、製品の品質を保証するために、検査専門のチーム(15名程度) が組織されています。このチームは、全社の製品すべての検査を担当しており、徹底した品質チェックを行っています。 特に注目すべきは、大手製造業のお客様基準の検査者認定を取得したメンバーが検査できる体制となっている点です。これは、特定の顧客の厳しい品質要求を満たすために、検査員のスキルと知識を高く維持していることの証です。高い専門性を持つ検査員が、先進的な検査機器を駆使して、製品の隅々まで品質を確認することで、不良品の流出を未然に防いでいます。 社内教育体制 品質は、最終的にはそれを生み出す「人」に依存します。亀岡電子では、この考えに基づき、充実した社内教育体制を構築しています。 新入社員は、入社直後から品質に関する基礎知識、QMSの概要、および自身の業務に関わる検査や作業の認定取得に向けた集中的なカリキュラムを受講します。これにより、全員が一定以上の品質意識とスキルを持って業務に臨めるようになります。 その後、配属されてチームで作業指導を受けます。 基本的な教育を終えた後も、OJT(On-the-Job Training)を通じて、より実践的なスキルを習得します。 作業指導報告書を基に理解度を確認し、問題なければ教育完了とします。 指導内容が確実に身についているかを評価する仕組みも徹底されており、形だけの教育で終わらせないように仕組み化しています。 さらに、属人化防止のためのマイスター制度も導入しています。 特定のスキルや知識が特定の個人に集中することを防ぐため、経験豊富なベテラン従業員が「マイスター」として若手従業員に技術やノウハウを伝承する制度を導入しています。これにより、組織全体の技術レベルを底上げし、継続的な品質向上に繋げています。 品質マネジメントシステムは製造業の未来を拓くキホン 本記事では、品質マネジメントシステム(QMS)の基本から、製造業におけるその重要性、そして具体的なサプライヤー選定のポイントまでを詳細に解説しました。 QMSは、単なる品質保証のための仕組みに留まらず、顧客満足度を向上させ、不良品リスクを低減し、コストを削減し、最終的には企業間の長期的な信頼関係を構築するための戦略的なツールです。 形式的な認証の有無だけでなく、サプライヤーのQMSが実際に現場で「生きているか」、経営層のコミットメントはどうか、従業員の品質意識は高いか、といった運用実態にまで深く踏み込んで評価することが重要です。 変動の激しい現代において、本記事が皆様のサプライヤー選定や品質マネジメントへの理解を深める一助となれば幸いです。 亀岡電子「EMS/ODMサービス」のお問い合わせはこちら (文・亀岡電子コラム編集部)